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大阪高等裁判所 昭和36年(ツ)52号 判決 1961年10月11日

上告人 山一衣料株式会社

右代表者代表取締役 野村登

右訴訟代理人弁護士 塩見利夫

被上告人 山松衣料株式会社

右代表者代表取締役 山中竹三

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

本件上告の趣旨および理由は別紙のとおりである。

(一)  本件記録中の第一審第六回口頭弁論調書の記載によると、昭和三四年六月一九日午后一時の右口頭弁論期日は、被上告人(原告)訴訟代理人弁護士大村須賀男ならびに上告人(被告)訴訟代理人弁護士塩見利夫出頭のうえ開廷され、担当裁判官本田武蔵は同日施行さるべき証拠調として、被上告人ならびに上告人代表者各本人の尋問をなすに際し、まづ、被上告人代表者本人山中竹三の尋問をなすこととし、右尋問に先立ち在廷中の後に尋問する上告人代表者本人野村登を退廷せしめたうえ、右被上告人を尋問したことが明かである。

(二)  ところで、上告人が提出した同訴訟代理人塩見利夫作成名義の昭和三四年六月二〇日附、大阪簡易裁判所民事五掛書記官宛の上申書と題する内容証明郵便の記載によれば、前記第一審第六回口頭弁論期日において、右上告人代理人は、前示のように被上告人代表者本人尋問に先立ち、裁判官が在廷中の上告人の退廷を命じた処置に対し、直ちに異議の申立をしたところ、裁判官は退廷を命じるのは当然として右異議を排斥して前記本人尋問を施行したことが認められる。

当事者本人も、後に尋問する旨が決定されている場合には、証人の場合に準じ、これを在廷させないで尋問することができるけれども、本人訴訟の場合は勿論、本人訴訟でなくても当事者は訴訟代理人の有無にかかわりなく証拠調の立会権を有していることに鑑み、当事者が尋問の立会を特に欲する場合には当事者公開の原則からその在廷を禁止できないものと解すべきである。

本件の場合前認定(2)の経過に徴すると、上告人代表者本人は被上告人代表者本人の尋問に立会うことを要求したことが明かであるから、前記裁判官が上告人代表者本人を退廷せしめた前示処置は、他に同人の在廷を禁止すべき特段の事情を詳かにしえない本件では、前記当事者公開の原則にもとるとの疑なしとしない。

(三)  しかしながら、第二審判決の理由によると、右判決は、上告人主張の免除の抗弁事実に副う上告人代表者本人の供述部分を排斥する一資料として、前記被上告人代表者本人尋問の結果を利用しているにすぎず、右抗弁事実は結局これを認めるに足る証拠なしとして排斥したこと判文上明かであるから、右被上告人本人尋問の結果を除外しても、なお右と同一の判断に到達したものと推認するに難くない。

そうすると、前記証拠調手続に存した瑕疵は、未だ原審判決に影響を及ぼすこと明かな法令違背には当らないというべきである。

よつて民事訴訟法第四〇一条、第九五条第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 沢栄三 判事 斎藤平伍 石川義夫)

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